アレルギーっ子の生活

<06-05      2001年07月08日(日)公開>

【今まで経験したアナフィラキシーの症例】

 アナフィラキシ−は最悪の場合には死に至ることもあり、アレルギ−性疾患を持つ患者さんにとって、最も注意すべき病態です。私の勤める病院は24時間受入れ可能な救急病院ということもありアナフィラキシ−の患者さんが多数来院します。1986年以降97年5月までの11年間にアレルギ−外来を受診し相談された87人の方についてまとめてみました。この他に、大人の方や一部の小児で外来を受診されていないアナフィラキシーの方も多くいますが大半は薬物やハチによるアナフィラキシ−の方たちです。

 今回まとめた目的は、1)何が原因となり、何が誘因となっているのか? 2)発症を予防するためには何をしたらいいのか?の2点です。特に1)については、誘因としての環境因子つまりダニや花粉のアレルギ−、腸内細菌叢の状態(カンジダと病原性大腸菌の検出率)、運動や疲労、同時に飲んだ薬などを調べました。

 まず症例を見てみましょう。

症例1. 6ヵ月、女の子。

     診断名は小麦によるアナフィラキシ−ショック。

 アレルギーの家族歴はありません。母乳栄養で、生後2か月より湿疹がありました。生後5ヵ月時、母が卵を食べて母乳を飲ませたところ、体全体にジンマシンが出て、顔が腫れてしまい、病院を受診しています。生後6ヶ月のとき、保育園で離乳食をあげました(冷凍母乳、そうめん、トマト、かぼちゃ、野菜スープ)。その直後、急におとなしくなり、顔色が悪く唇が紫色になってしまいました。食べたものを吐き出し、両手両足をダランとさせて力が入らず、そのまま眠ってしまったのです(血圧低下、顔面蒼白、嘔吐、意識障害)。すぐ坂病院を受診。病院に着いた頃にはやや元気が出てきましたが、全身が真っ赤になり、腫れていました(全身の紅斑と浮腫、ジンマシン)。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を点滴し改善。診察した医師はトマトを疑いトマトの摂取を禁止しました。ところがその5日後離乳食を食べた30分後に再び同じ事が起こり病院に担ぎ込まれました。食べたものはうどん、かぼちゃ、キャベツ・なす・人参・ジャガイモの野菜スープでした。小麦が原因の可能性強く、小麦の摂取を禁止しました。同日のアレルギー検査で小麦・牛乳・卵が陽性でした。以後、牛乳・卵・小麦製品の除去など食事療法を開始し、軽い気管支喘息はありましたがアナフィラキシーは起こしていません。後の検査で便中カンジダアルビカンス強陽性、腸管病原性大腸菌強陽性で腸内の状態はあまりよくありませんでした。

 この症例は生まれて初めて食べた小麦製品でアナフィラキシーを起こした例です。妊娠中、授乳中に感作されていたと思われます。同様なことは生まれて初めて食べた卵、ピ−ナッツ、人工ミルクでも経験しました。
症例2. 16才、男子。

     診断名、豚肉・オレンジ・人工香料・キク花粉によるアナフィラキシーショック、解熱鎮痛剤によるアナフィラキシーショック

家族歴

 父にじんましん、姉に花粉症があります。

既往歴

 8才から4回じんましんあり、14才のとき寝不足でアスピリン・バナナを食べ、自転車通学後アナフィラキシ−ショック、15才時、鎮痛剤のプラノプロフェンでアナフィラキシ−ショックを起こし、解熱鎮痛剤に過敏症のあることが確認されいる。

現病歴

 91年10月5日、学生食堂で昼食に、カツカレー、オレンジジュースを食べました。午後3時ごろ、ブルーベリーガムを食べ、直後から体育館でバスケットの練習をしました。周囲にはキク科の花が咲いていました。走っている最中、息苦しく、体が自分のものでないような感じがし、シュート練習中に眼がチカチカして開けられなくなってきました。保健室で休もうとして行く途中、トイレの鏡で顔を見たらまぶたが腫れ、全身に赤い紅斑がでており、これはだめだと思ったところへ先生が通りかかり、当院に電話してくれました。この頃より、立っていられなくなり、呼吸苦しく、先生の車に乗って病院に来る途中意識を喪失しました。来院時、顔は全体に腫れ上がりまぶたは特に浮腫が目立ち、まるでゼリーのようでした。全身の紅斑・紅潮、全身の浮腫、呼吸困難(気管支喘息発作)があり、エピネフリン(ボスミン)と副腎皮質ホルモン剤使用、酸素投与にて意識と呼吸困難は回復しました。アレルギー検査ではキク花粉、オレンジ、豚肉にアレルギ−がありました。

 この例は、ヨモギ、ブタクサなどキク花粉症の季節に、アレルギーがあるオレンジ・豚肉を摂取し、人工香料の香りの強いブルーベリーガムをたべ、直後に激しい運動をしたことによってアナフィラキシーショックが引き起こされたと思われました。この方は、幼少時、痛いとすぐアスピリン(バッファリン)、熱が出るとすぐバッファリンと頻回に解熱鎮痛剤を使用していたことが異常な反応を起こしやすくさせた誘因とも考えられました。この約1年後、バルセロナオリンピックを見て徹夜後にハム・ポカリスエットを摂取してバスケットをした時は、幸いにも眼瞼のむくみ(浮腫)のみですみました。その後は大きなアナフィラキシーを起こしていません。
症例3. 37才女性。診断名はキク花粉・小麦によるアナフィラキシーショック
既往歴

サバ、餃子でじんましん、1カ月前にアレルギー性鼻炎と診断されました。

現病歴

89年10月26日21時半頃、ウイスキー水割り少し、イカのてんぷら、ほたてバター焼きなどを食べました。その後吐き気がありましたが寝てしまいました。23時半頃、くしゃみ頻回あり、胃がキリキリと痛く、胸が苦しくなり目覚めました。トイレに行き下痢をしましたが、その頃より、眼が見えなくなり、意識を失いました。アパートの庭にはキク科の花がたくさん咲いており、当日、布団を外に干していますので、布団についた花粉を吸い込んでいる可能性があります。旦那さんに抱きかかえられて病院に到着したときは血圧40mmHgと低下。意識はなく、全身が真っ赤に(紅斑)なっていました。全身の浮腫(むくみ)はひどく、特にまぶたは浮腫著明でした。エピネフリン(ボスミン)皮下注、副腎皮質ホルモン剤使用にて改善。目が覚めた時、「私、生きてたんですか?」が第一声でした。検査ではヨモギ、フランスギクなどキク花粉強陽性、小麦陽性でした。キク花粉がアナフィラキシィー発症に影響していると考えられた例です。以後も繰り返していますが、小麦の加工品が原因となっているようです。便培養では腸管病原性大腸菌が強陽性でした。

1986年から1997年5月までに経験した87例について(2000年までの153例196件)

今回経験した87例について考えてみましょう。

アナフィラキシー人数(計85人) 0歳が25人(男16人、女9人)、1歳から11歳が30人(男18人、女12人)、12歳から20歳が16人(男12人、女4人)、21歳から73歳が14人(男4人、女10人) 昆虫によるアナフィラキシー2例(29才から39才までの間に4回、アリにかまれてアナフィラキシーを起こした女性とツチバチに刺されてアナフィラキシーを起こした66才の女性)は原因や発症の経過が明らかなので今回のまとめからは外し、85例(122回)についてまとめました。

年令・性別・回数

 性別では20才まではやや男性に多い傾向があります。21才以上では女性が多くなりました。先に病院に入院したアナフィラキシー患者さんのまとめで述べたごとく、20才代から30才代前半にかけては症例が少なくなりますがアナフィラキシー報告症例の年別、40才を超えると増える傾向があります。21才以上の例には5回起こした68才男性、12回起こした37才女性がいるためアナフィラキシー回数が増えています。












1人が経験したアナフィラキシーの回数 1回が66人、2回が13人、3回が3人(1歳女、15歳男、30歳女)、4回が1人(14歳男]、5回が1人(68歳男)、12回が1人(37歳女) アナフィラキシーの回数(計122回) 0歳が26回[男16回、女10回)、1歳から11歳が37回(男22回、女15回)、12歳から20歳が23回(男17回、女6回)、21歳から73歳が36回(男11回、女25回) 血圧低下又は意識障害の頻度 0歳が36%(25人中)、1歳から11歳が46.7%(30人中)、12歳から20歳が50.0%(16人中)、21歳から73歳が42.9%(14人中)

気管支喘息を伴った頻度 0歳が16%(25人中)、1歳から11歳が43.3%(30人中)、12歳から20歳が50%(16人中)、21歳から73歳が28.6%(14人中)

重症度

 血圧が低下してショック状態になるか意識状態が悪くなった重症な例は12才から20才に高くなりました。気管支喘息発作を起こし呼吸困難を起こした症例もこの年令層に多くなりました。この内2例が死亡しています。

運動誘発性アナフィラキシーの頻度

 運動をすることでアナフィラキシーを起こしてしまう運動誘発性アナフィラキシーは、12才から20才に集中し、このことがこの年令でのアナフィラキシーの重症度を高くしている最大の原因となっていました。運動運動誘発性アナフィラキシーの頻度 0歳が0%(25人中)、1歳から11歳が3.3%(30人中)、12歳から20歳が62.5%(15人中)、21歳から73歳が14.3%(14人中)誘発性アナフィラキシーは8才男児が最低年令で、37才で発症した女性が最高年令でした。

原因物質  1986〜2000年分

 原因物質が特定できた症例では、低年齢で牛乳・卵・小麦・ピーナッツが多く、年齢が増すと小麦が原因となる症例が増加しました。運動誘発性アナフィラキシーでは小麦が原因となる場合が圧倒的に目立ちます。その他、ソバ、コショウ、ニンニク、チョコレート、豚肉など何でも原因物質になることがわかります。最近目立つのがチリ産のトコブシ(ラパス貝)によるアナフィラキシーです。アワビの醤油漬けなどと称してお土産品として売られていますが、この貝のアナフィラキシーが3例いました。また、今回の症例をまとめた後に、さしみやサンマのスリミを食べて、魚やイカに寄生する寄生虫アニサキスによるアナフィラキシーの大人の方を3人続けて経験しました。

         原因物質(虫刺症2例を含む)     単位:回数、●:運動誘発性
  0才 1−11才 12−20才 21−73才
○○○○○○○○○ ○○○○○○○○    
牛乳 ○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○ ○○  
小麦 ○○○○○○○○ ○○○○○○○ ●●●●●○○ ●●●○○○○○○○○○○○○○○○
ピーナッツ ○○ ○○○    
ソバ    
豚肉     ●●  
コショウ    
ニンニク    
チョコレート    
ココナッツ    
バナナ    
オレンジ      
キウイフルーツ      
トウモロコシ      
ゴマ      
なたね油      
クルミ      
コーヒー      
ベニ花油(キク科)      
フキノトウ(キク科)      
ラパス貝   ○○○    
アサリ      
イクラ   ○○    
エビ      
アカウオ    
イカ      
タラ(カマボコ)      
イワシ      
解熱鎮痛剤・抗生剤 ○○ ●○○ ○○○○○○○○
ツチバチ虫刺症      
アリ咬症       ○○○○
件  数 26 37 23 41回

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