朝日新聞・日曜版−2001年09月30日(日曜日)

みんなの健康

 肺がん<下> 禁煙ガム、薬局で

 たばこは、肺がんを引き起こす「有力容疑者」のひとつに挙げられる。今月、禁煙補助薬のニコチンガムの市販が始まり、禁煙のハードルが少し低くなった。見つけにくかった小さな肺がんも、新しい診断装置なら早期発見できる。禁煙と検診が対策の二本柱だ。                                                      (中村 浩彦)

対策は検診と2本立て

 「吸わないとイライラして仕事が手につかない。取引先とお酒を飲んだりしていると、本数も増える。体に悪いのは分かっているが……」
 都内で営業の仕事をするAさん(56)は若いころからヘビースモーカーだ。1日に60本も吸っていた時期がある。今でも毎日1箱は空にする。
 せき込んだり、のどの奥に違和感があったりする。何度も禁煙を試みたが、「ダメでした。止めるのは難しい」。
 国際肺癌学会によると、世界で1年間に発生する肺がん患者66万人のうち、喫煙が原因とされる人は9割に上る。たばこを吸う人は吸わない人より、リスクが数倍から10数倍も高い。
 2カ月間が勝負
 Aさんのように禁煙に挫折した人に朗報となるかもしれないのが、禁煙補助ガム(商品名=ニコレット、48個入り3950円)の市販化だ。
 ついたばこに手を出してしまうのは、血中のニコチン濃度が下がったときだ。イライラなどのつらい症状が出て、負けてしまう。
 ガム1個には2mgのニコチンが入っている。かむと、口の粘膜から吸収される。ニコチン濃度を保っておけば、イライラなどを抑えられる。禁煙に成功すれは服用を止め、ニコチンを体内から追い出す。
 これまでは医師の処方がないと手に入らなかったが、今月から薬局などで手軽に買えるよう
になった。使い方のポイントを、JR東京総合病院で禁煙外来を開く石井周一・内分泌内科担当部長に聞いた。
 「数回噛んだ後、歯ぐきとほほの間に1分間はさみ、ニコチンを吸収させる。それを繰り返して下さい。1個あたり30分から1時間かけて」
 石井さんはニコレットや皮膚にはる「ニコチンパッチ」を使って、これまでに約1500人を指導した。禁煙開始から2カ月後の成功率は6〜7割だという。「禁煙は短期決戦。最初の2カ月が勝負です」
 「肺がんの死亡率とたばこの消費量は比例する。早急にたばこ対策に取り組まないといけない」。そう語るのは、国際肺癌学会の会長を務める加藤治文・東京医科大学教授だ。
 たばこ対策に成功した各国の例を見ると、喫煙率が下がり始めてから、死亡率が減少に転じるまでに、約20年の時差があったという。
 個人の場合も禁煙したからといって、すぐにリスクが減るわけではない。5〜9年たって、やっと喫煙者の36%にまで下がってくる。

喫煙者は肺門型

 たばこを吸う人も吸わない人も、検診は大切だ。東京都予防医学協会が運営する会員制の検診組織「東京から肺がんをなくす会」 (年会費5万円)は、93年にらせんCT(コンピューター断層撮影)を導入した。胸部をらせん状に輪切りにした映像が撮れる装置だ。
 今年2月までにのべ1万3千人を検査した。がんが見つかったのは52例。うち46例が肺の奥の方にがんができる「肺野型」だった。たばことは関係が薄いと見られている。
 日本人男性の肺がんの40%、女性の70%以上を占める腺がんは、このタイプが多い。
 これに対し、気道に近い肺の入り口にできるものは「肺門型」。こちらは喫煙と深く関係することがわかっている。
 「なくす会」が新装置の導入以前に]線撮影などで見つけたがんの大きさは、平均30_がだった。導入後は15.5_と小さくなった。 初期のがんが8割以上を占め、治療後の5年生存率も49%から81%に上昇している。
 検診を担当する松井英介医師は「早期発見、早期治療が長生きにつながるのは間違いない。禁煙による一次予防も大切だが、たばこを吸う人は特に、一度はらせんCTで検査して、自分の肺の状態を把握することが大切だ」と話している。

☆肺がんの種類☆
 がん細胞の組織の違いにより、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんに分かれる。扁平上皮がん、小細胞がんは肺門部に、腺がんと大細胞がんは肺野部に多い。日本人には腺がん、扁平上皮がんが目立つとされる。

2001年08月分のニュースのindexページに戻る