読売新聞−2001年(平成13年)05月10日(木)

編集手帳

 道を歩いていて、ふと見上げると、電線のカラスと目が合った。正直、ギョッとした。繁殖期の今、親は巣のヒナや卵を守ろうと、人間を攻撃してくることもある◆東京都内に生息するカラスはざっと三万羽という調査結果がある。三年前の別の調査より約一万羽多い。都は巣の除去作戦などに乗り出したが、これだけ増えたのも主に生ゴミの不始末のせいだという◆「カラスの勝手」ならぬ「人間の勝手」という気がしないでもない。皮肉なことに、きょうから愛鳥週間。日本野鳥の会、日本鳥類保護連盟が「ヒナを拾わないで」キャンペーンを始めている◆無論、カラスではなく野鳥一般の話だ。巣立ちしたばかりのヒナはうまく飛べない。地面に降りてしまうことがあるが、多くは親鳥が見守っていて世話をするから、そのままにするか、木の枝に止まらせる程度でいい◆野鳥の捕獲・飼育は鳥獣保護法で禁じられているし、いくら善意でもヒナを育てること自体が難しい。仮に育てても、多くの場合、再び厳しい野生の世界に適応することは不可能だろう◆哀れな死が待つ。自然のままでも、長く生き延びることのできるヒナは一割あるかないかと言われているそうだ。昆虫の世界についてのファーブルの言葉を借りれば、鳥たちの世界も「あらゆる種類の思索に富んでいる」。

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