読売新聞−2001年(平成13年)05月10日(木)

一面

児童虐待 年30,000件   
 厚生省初の推計 18,000機関調査

「相談」の3倍 深刻さ増大

 児童虐待が社会問題化する中、厚生労働省の児童虐待実態把握研究班は9日、年間に約3万件の児童虐待が発生しているとの推計値をまとめた。関係機関を網羅した、初の大規模調査に基づくもの。児童虐待の相談件数は急増し、年間1万件を超えているが、実際の被害はそれを大きく上回ることを示しており、児童虐待の問題の深刻さが改めて浮き彫りとなった。この調査結果を受け、同省は虐待予防の体制整備を急ぐ。
 今回の調査は、全国の自治体の中から三県、三政令都市、三市を選び、児童相談所や保健所、保育所、学校、警察、医療機関、弁護士など、虐待をキャッチしうる約18,000の関係機関すべてを対象に実施。打撲から生命に危険の及ぶ可能性のある暴行までを含む「身体的虐待」など、児童虐待防止法の定義に基づいて、虐待や虐待の疑いのあるケースを報告してもらった。
 回答が得られた7,211機関が昨年4月からの半年間に把握した虐待事例は1,980件。対象地域に住む児童人口(0歳−17歳)は全国の12%にあたる。これをもとに全国での虐待発生数を推計すると、年間約30,000件、児童1,000人当たりで1.4人となった。
 これまで、児童虐待の発生数は、児童相談所への通報、相談件数などから推測するしかなかった。99年度には約11,000件で、この10年で約10倍と激増ぶりが目立っていたが、専門家の間からは「氷山の一角。虐待の把握が進めば、数は何倍にもなる」との指摘もあった。
 今回の調査では、虐待の把握例は、児童相談所が全体の36.7%、保健所・保健センターが16.9%、学校8.6%、保育所6.7%などで、広範な機関が虐待をつかみ、対応する機会があることもわかった。
 研究班は今年度、調査対象を全国に広げ、保健所、児童相談所、小児科、救急などの病院については可能な限り全数調査を行い、数が膨大になる保育所、学校、診療所についても抽出調査を行い、虐待の全体像の把握につとめる。この調査結果について同省は「それぞれの期間が児童虐待への取り組みを強めていけば、埋もれ出る事例をさらに表に出てくる。事態を把握した上で、保健所での育児不安への対応を強化し、虐待予防につなげるなど、体制整備を進めたい」としている。
 日本子ども家庭総合研究所ソーシャルワーカー研究担当部長・才村純さんの話「30,000件の背後に潜む事例をいかに把握するかが今後の課題。調査で各機関同士の連携の問題点もわかってくると思う」

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