読売新聞−2001年(平成13年)04月16日(月)

ひろば

教育新世紀
 作家の村上龍さん 「新しい価値観 大人が示そう」

 作家の村上龍さんが、全国の中学生約1600人にアンケートをした。結果は、先ごろ出した著作「『教育の崩壊』という嘘」(NHK出版)に詳しい。教育を巡る論議が錯そうする中、無作為に選んだ普通の中学生の声を聞いてみたかったのだという。
 質問項目を自ら練った村上さんに感想を聞くと、「思ったよりはるかにまともで、元気でした」との答えが返ってきた。「こんなに混乱した国で、よく素直に育っているなと思った」
 たとえば、「将来のことを考えるとき、どんな気分になるか」という設問。「複雑な迷路の中にいる気分」といった回答も少なくないが、「自分は何をしたいのか悩む。でも考えているとうれしくなってくる」「夢があるから、めっちゃ楽しみになる」など、若者らしい答えが目をひく。
 村上さんは、「むしろ大人たちの側が、子どもにどんな人生を望むのか、自分がどう生きるべきなのか、わかっていない」と問題を指摘する。
 学校や会社など「よりよい集団に入ることが最優先」という価値観が崩れ、親や教師の「権威によるコントロール」が機能しない時代。「さっと黒板を向くような40人のクラスをつくろうなんて、もう無理。教育は崩壊したのではなく、変化に対応できていない。新しい価値観が示されていないんです」
 では、どうすればいいのか。「様々な格差や混乱も含め、実態をきちんと把握する。その前提で解決を考えないと意味がない。子どもをひとくくりにして『ゆとり教育はどうか』と論議するのは、出発点から間違っている」
 昨年、中学生の集団不登校を描いた小説「希望の国のエクソダス」が話題になり、教育に関して発言する機会が増えた。「金融や経済のことを考えると、必ず教育の話になる」とも。
 「アンケートの回答を見てからタイトルを付けた」というこの本には、教師や保護観察官など一線で子どもに接する人との対談も収録され、現場へのこだわりが貫かれている。                                         (古)

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