毎日新聞−2001年(平成13年)04月16日(月)

知って得する暮らし百科−目指せ発明の達人−

女性の「生活の知恵」生かし、ちょっとした工夫から

18日は「発明の日」。大発明でなくても、身近な生活の中にアイデアを求め、わずかな工夫と知恵で、年間億単位を稼ぎ出している女性も大勢いる。億単位とまではいかなくとも、不況の今だからこそ、"生活の知恵"を生かし、ちょっとした発明品を目指してはいかが。ヒット商品を生み出すコツを、発明の達人たちに聞いた。
                                                            【清水 優子】

地下鉄マップで年商1億円以上

 東京の地下鉄には、どの車両に乗っていれば乗り換えに便利かが分かる車両図がある。階段や通路が複雑に絡んでいる東京の地下鉄駅ならではの便利グッズだが、これを作ったのが、東京都世田谷区の主婦、福井泰代さん(35)だ。
 育児中だった5年前、地下鉄のホームでベビーカーを押しながら、エレベーターを探して右往左往。こんな苦労はもうイヤと、週末、子供を夫に預け、地下鉄全駅の調査を開始。半年後、短冊状に折り畳んだ紙に、エスカレーターの位置や乗り換え階段に近い車両、終電時刻などを記した手書きの「地下鉄のりかえ便利MAP」を完成させた。
 自信があったので翌年の1997年に有限会社を設立し、積極的に売り込み。現在は営団地下鉄やJR、手帳会社など約50社と契約し、年商は約1億5000万円にもなる。福井さんの発明はこれ一つだが、「自分が苦労したことで他人に苦労はさせたくなかった。女性は生活に密著し地に足がついているので、発明品もコストが少なく商品化しやすい」と自己分析する。

不便さの裏には必ずヒントが

 「スリッパのかかと部分を切り落として履いたら、ダイエットできるかも」。こんな発想で、12年間に約40億円を稼ぎ出したのが神奈川県鎌倉市の中澤信子さん(56)。腰痛と肥満に苦しんだ15年前、棚から物を取ろうと、つま先立ちした瞬間、ひらめいたのが「初恋ダイエットスリッパ」だった。
 普通の半分の長さのスリッパで、土踏まずを刺激し、緊張感を持って履くため姿勢がよくなり、ダイエットにも良い、という。
 口コミで広がり、12年前に商品化。価格は2000〜3200円と安くはないが、国内外で約350万足が売れた。商品名は「初恋のころのように、スリムな体と純粋な気持ちに戻りたい」との願いを込めた。
 小学生の時の第1号以来、発明作品は50点近い。最新作の血行を良くする健康靴下「明日元気にな−れ」も年商4億円の大ヒット。94年には発明品の販売などを行う有限会社を設立し、約10人の従業員を抱える。年収は「ウン億円」といい、7年前には海辺のマンションを約7000万円で購入し、夢のアトリエも構えた。
 「一分一秒が大切」とポケットにメモをしのばせ、アイデアを書き留める。「不便さやわずらわしさの裏には、必ずアイデアのヒントが潜んでいる」とアドバイスする。
 千葉県沼南郡の主婦、笹井さとみさんが発明したのは、「冷蔵庫ポット」。冷蔵庫内に袋状のネットを金具で掛けるだけの簡単な物。マヨネーズなどのミニパックを収納し、中身を確認できるのが特徴だ。94年に商品化し、ピーク時は年間100万個近く売れた。他の発明品分も含め、これまで得た特許料は計1000万円を超えた。

発明に定年なし

 女性発明家の先駆的存在なのが、社団法人「婦人発明家協会」名誉会長の九重年支子さん(96)。38年に小型手織機「九重織」を発明したことで知られ、第1回科学技術庁長官賞の受賞者だ。
 発明魂は今も健在。3年前に入院中の病室で、長さを自在に調節できるステッキ「マー! ステッキ」を発明。点滴棒にチュ−ブをつけた患者たちが背筋を伸ばして歩く姿を見て、腰が曲がりがちな高齢者用のつえを思い出した。九重さんは「物事に対する固定観念を捨て、感じたままを作品にすればいい」と言う。同協会の下条裕代(ヤスヨ)会長は「発明で一獲千金はあり得ず、成功した人は必ず地道に努力している。発明に定年はない。アイデアが浮かんだら、まず試作品を作ると具体化しやすい」と話す。

「プロの客観的アドバイスを」

 アイデアの権利は、出願する取得物によって
△特許(利便性を目的とした道具や機械で、権利機関は20年)
△実用新案(特許と同じだが、無審査で権利期間は6年)
△意匠(デザイン)
△商標(商品やサ−ビス、事業につける名前)
に分かれる。
 個人の特許取得の指導や相談に乗っている社団法人(発明学会)によると、特許庁への出願手続きは弁理士など専門家に頼むと、30万円前後の代理手数料が必要。だが、自分で手続きをすれば2万1000円の出願料だけで済む。
 平井工・同会事務局長は「発明の世界は金をかければ際限がない。素人が多額の借金を背負う例も多く、プロの客観的アドバイスを受けて欲しい」と話す。同会は無料相談会(金曜日午前)手紙で、年間約8000件前後の相談に応じている。
 問い合わせは 同会(03−5366−8811)

《女性が発明した最近の主なヒット商品》
■目薬指し補助具・アカンベー
 手が震える高齢者や不器用な人のための補助具。下まぶたを開いた状態で固定するため目薬がこぼれない。
■冷凍庫用保存容器
 独身女性の考案。冷凍庫に保存したご飯を、一食分ずつ小分けして保存できるプラスチック容器。
■粉ふるい器
 揚げ物の際、小麦粉が大量に捨てられるのを見た寮母が考案。軽量カップにネットがついており適量を振りかけられる。
■カンタン針
 編み針の先端が従来のように尖っていると滑りやすいため、キノコ形にくびれをつけた。
■金たわしカバー
 金属たわしにネットをかぶせた。指先の荒れやマニキュアの保護が目的
■フリーサイズ式落とし蓋
 鍋の大きさに合わせて、ステンレス製の蓋が自在に伸び縮みする。
■着替え用カバー
 セーターなどかぶりものの衣類に着替える時、口紅や化粧がセーターに付かないよう頭部を包むネット。
■ひったくり防止器具
 自転車のカゴをハンドルの手前につけることで、ひったくりから防止する。
                                                (発明学会、婦人発明家協会による)

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