毎日新聞−2000年(平成12年)12月10日(日)

一面

奉仕活動「義務付け」削除

教育改革国民会議  最終報告  原案判明  「18歳後に1年検討」

 森喜朗首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」(座長・江崎玲於奈芝浦工大学長)が22日に提出する最終報告の原案が9日、明らかになった。論議を呼んでいた「奉仕活動」について、「満18歳後の一定期間に、すべての青年が1年程度、奉仕活動を行うことを検討する」と明記された。7月の分科会報告や9月の中間報告に盛り込まれていた「義務付け」が削除されたほか、実施対象年齢も「18歳」から「18歳後」に広げた。教師や親に奉仕活動への参加を呼びかけ、学校や企業、地域などが協力する社会的仕組み作りを求めるなど、奉仕活動を行う環境整備に力点を置いた。

 原案では、中間報告の「教育を変える17の程案」の項目をそのまま踏襲した。しかし、教育基本法に関する項目名を「見直しについて国民的議論を」から「新しい時代にふさわしい教育基本法を」と変更し、伝統・文化の尊重などの観点から、政府に「基本法見直しに取り組むこと」を求めた。ただ、改正論議の方向には「国家至上主義や全体主義的なものになってはならない」と歯止めをかけた。 奉仕活動については「小・中学校では2週間、高校では1カ月間、共同生活などによる奉仕活動を行う」としたが、中間報告にはなかった「実施方法については子どもの成長段階に応じて各学校が工夫する」との表現が追加された。

 また、満18蔵の奉仕活動についても「検討する」は中間報告と同じだが、今回は「満18歳後の一定明間に」と年齢に幅を持たせたうえで、分科会報告の「義務化」や中間報告の「義務付け」との表現を削除した。奉仕活動の一律義務づけには教育現場などから反発が出ていたが、最終報告ではより現実的な提言になった。

 高等教育では、「リーダー養成のための大学・大学院の教育・研究機能を強化する」として、高等教育の目的は政治・経済・環境などの分野で世界をリードするリーダーの養成にあると強調。そのた勧に、産業界との交流を図るインターンシップ(就業体験)の実施や、優れた学生には修士号は最短1年、博士号は最短3年で取得させることなどを求めた。

★教育改革国民会議「最終報告案」要旨★

 教育改革国民会議「最終報告案」の、中間報告からの変更点など主な内容は次の通り

1.私たちの目指す教育改革

 <危機にひんする日本の教育>
 日本の教育の荒廃は見過ごせない。いじめ、不登校、校内暴力、学級崩壊など現状は深刻であり、このままでは社会が立ち行かなくなる危機にひんしている
 <教育改革への基本的考え方>
@基本に立ち返る=教育において、社会性や人間性が重要であることを改めて考える。伝統や文化、家庭教育の重要性などは、偏狭的な国家主義の復活ということでは決してない。グローバル化の進展する中で日本人としてのアイデンティティーを持って人類に貢献する人間を育成する
A改革の具体的な動きをつくる=実際の教育の場で改革が実現されるスピードが遅い。失敗を恐れず、必要な改革を勇気を持って実行しなければならない

2.人間性豊かな日本人の育成

 企業は教育休暇制度を導入する▽家庭が多様化している現状を踏まえ、幼椎園や保育所の教育的機能を充実させる▽小学校に「道徳」中学に「人間科」高校に「人生科」などの教科を設ける▽学校教育においては、伝統や文化を尊重するとともに、古典、哲学、歴史などの学習を重視する▽小中学校2週間、高校1カ月間、共同生活などによる奉仕活動を行う。内容や方法は子どもの成長段階などに応じて学校が工夫する▽将来的には、満18歳後の一定期間に、すべての青年が1年程度、奉仕活動を行うように検討する。学校、大学、企業、地域団体などが協力して実現のための社会的な仕組みをつくるよう努める▽問題を起こす子どもへの適切な措置と方策を講じる

3.一人一人の才能を伸ばし創造性に富む日本人の育成

 少人数教育、習熟度別学級の促進▽高枚での年複数回の学習達成度試験の実施▽大学入学年齢制限(現行18歳)の撤廃▽大学の9月入学を多くの大学が実施するよう積極的に推進する▽社会奉仕活動への積極的な参加を促す学習システムを(大学に)導入する▽世界のトップレベルの研究機関と伍(ご)していくために(大学・大学院に)重点的な資源の投入と基盤整備を行う

4.新しい時代に新しい学校づくりを

 改善されない教員の他職種への配置換え、免職▽学校評価制度の導入▽IT(情報技術)教育と英語教育はなるべく早い時期から「本物・実物」に触れさせながら促進する▽コミュニティースクールの設置の可能性を検討する

5.教育施策の総合的推進のための教育振興基本計画を

 教育改革を実行するための財政支出の充実が必要であり、目標となる指標の設定も考えるべきである

6.新しい時代にふさわしい教育基本法を

 教育基本法の見直しを議論する上で欠かすことができないのは「新しい時代を生きる日本人の育成」「伝統、文化など次代に継承すべきものの尊重」「理念事項だけでない具体的方策の規定」の三つの観点。(ただし)改正の議論が国家至上主義的考えや全体主義的なものになってはならない

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