毎日新聞−2000年(平成12年)10月31日(火)

若年性アルツハイマー患者「家族会」がスタート
働きざかりに発症して、痴呆状態に  

情報交換や励まし合う場に 薬の副作用、接し方など質問も

 働きざかりに発病し痴呆症状が進行する若年性アルツハイマー患者の家族会が結成され、このほど東京都文京区の順天堂大学で初めての会合が開かれた。働き盛りでの発病は精神的にも経済的にも家族に大きな負担をもたらすが、同じ立場の家族が集まることで、今後は情報交換や励まし合う場になりそうだ。                            【大和田香織】

 結成を呼びかけたのは、同大メンタルクリニックで痴呆症外来を設けている新井平伊教授。痴呆症状を示す病気にはアルツハイマー病のほか脳血管性の病気など複数ある。新井教授によると、40、50代で発症するのは初老期発症型アルツハイマー病が多く、同クリニックでは現在16人ほどが受診している。遺伝によるものはまれで、ほとんどの家族は予期せず突然に介護の日々に放り込まれる。「症状の進行を遅らせる薬も開発され、研究は進んでいるが早期発見早期治療が大切。それには家族のケアが欠かせません」と話す。

症状が進み、食事も管による栄養補給に頼る妻を介護する田辺さん(自宅で)

 今月初めに開かれた初会合には、約20人の家族が出席し、12年前から妻(63)を介護する東京都国分寺市の田辺昭午さん(70)が、福祉サービスの利用などについて講溝した。

 田辺さんの場合、医療関係の仕事をしていた長女が気付き、早期に受診できたが、継続して治療してくれる医師を見つけるまでに数年かかった。また当時、自治体にヘルパーを派遣してもらおうとしたが、65歳未満であることを理由に断られた。障害基礎年金や精神保健福祉法による医療費減免など、受けられる支援を探すのに苦労した。

 介護保険が始まり、65歳未満でも一部サービスは使えるようになったが、難病扱いなら適用される訪問看護費用の免除など課題は残るという。田辺さんは「自分の経験を多くの家族に伝え役立てたい。また他の家族と話してみると、患者には、あまり外出しないといった共通点もあるように思う。こうした家族の経験を集約することは、病気の研究にも有効ではないか」と話した。

 会場では薬の副作用や患者への接し方など質問が出たほか、夫を介護する女性からは「家計を支え働かなくてはならないのに『介護は家族の手で』という考えが依然強く、行政の窓口でも感じる」と精神的な支援を求める声もあがった。

 問い合わせは住所、氏名、連絡先を記入し、家族会の事務局である同大精神医学教室へファクス(03・3813・9057)で。折り返し間診票を送る。

若年性アルツハイマー病
 若年性アルツハイマー、若年期痴呆とも正式な医学用語ではなく、65歳以前に痴呆症状の表れる場合を指すことが多い。原因、治療法は十分解明されていない。若年性アルツハイマー病患者数も正確な調査はないが、聖徳大学の柄沢昭秀教授が、1990年に各種調査や統計をもとにまとめた推計により40歳以上人口10万人あたり20〜30人、当時の人口で国内に10,800〜16,300人という結果がある。若年性痴呆全体では同10万人あたり40〜90人程度に広がるという。

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