読売新聞−2000年(平成12年)10月29日(日)

シドニー・パラリンピック 今日閉幕
 【シドニー28日=読売取材団】

 

 競泳男子4×100bメドレーリレー(視覚障害)で日本(酒井喜和、中条泰治、河合純一、杉田好士郎)が世界新で金。河合純一(25)は男子50b自由形(視覚障害1)でも優勝し、アトランタ大会に続く2連覇を達成した。陸上男子4×100bリレー(視覚障害)でも日本(高田幸一、斉藤晃司=伴走・丸尾章弘=、星野直志、矢野繁樹)は銀。女子400b(車いす1)の要田美紀(37)は銅メダルを獲得した。女子5000b(車いす)ではメダルが期待された土田和歌子(26)、畑中和(31)は4位、5位に終わった。バスケットボール車いす男子は9位決定戦でメキシコに競り勝った。きょう29日はマラソンが行われ、大会は閉幕する。

◆「金」の河合を水先案内◆        タッバー 富築 一行さん 37  「指示ピタリ 頼れる相棒」

 何も見えない。目指すゴールも、隣を泳ぐライバル、ダニエル・ケリー(24)(米)の姿も。光さえ感じられないコースを河合は泳ぐ。
 ゴール寸前。待ち構えるコーチの富築一行さん(37)が持つ長い棒がす−っと伸び、河合の頭にポンと触れた。ゴールタッチ。頭上の富築さんから金メダルを知らされ、こぶしを突き上げた。

男子50b自由形で優勝した河合純一(左下)に合図を
出すタッパーの富築一行さん(手前右)=三輪洋子撮影

視覚障害の選手に合図棒でターンとゴ−ルを指示するのが「タッパー」。出場全5種目でメダルを手にした河合のタッパーを務めたのが、富築さんだ。
 指名されたのは今年4月。トップスイマーの指示役。緊張がなかったわけではない。
 6月の中部地区大会。ターン手前でコースロープに当たりスピードが落ちた河合に、富築さんは一瞬、合図棒を出すのが遅れた。プールの壁に近づき過ぎてのターン。失敗だ。微妙な呼吸のズレがレースに影響する。
 合図棒は、釣りざおの先に、発泡スチロールを円形に切って取り付けた簡単な作り。長さは自由形だと1b50。ロールターンする背泳ぎは2b30。たたくタイミングも種目で異なる。自由形は、たたいたらすぐ手が壁に着くように。背泳ぎは約1b60の手前で。早過ぎるとタッチが届かないし、遅ければ壁に激突してしまう。
 富築さんは、日本選手団の強化合宿で河合と何度も練習を重ね、呼吸をつかんでいった。
 種目によって、タッパーが2人の時もある。50bは富築さんだけだが、ターンがある100bや200bの時は、小西暢子さん(33)が富築さんと反対側に立ち、合図棒を握る。
 大学時代は水球の日本代表だった。ひとかき、ふたかき。河合のストロークに、自分が泳いでいる姿をだぶらせている。
 以前、小西さんはこう語ったことがある。「視覚障害の選手には怖さが常につきまとう。壁にぶつかって、骨折や脳しんとうを起こすかもしれない。それを恐れてスピードを緩めることなく、タッバーを信頼して突っ込んで来てくれる。意気に感じます」
 レース後の記者会見で、河合は語った。「自分一人の力だけではなく、タッパーや多くの人のおかげで、ここまで来られた」
 目は見えなくても、タッパーを信じていたから、支えがあったから、その手に金メダルがある。

   (足達 新)

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車いす女子5000b  土田無念 気負って4位  サバージュ猛ダッシュでV◆

女子5000b決勝で、4位に終わった土田和歌子選手(右)と優勝してガッツポーズをするサバージュ選手=小浜誓撮影
女子5000b決勝で、4位に終わった土田和歌子選手(右)
と優勝してガッツポーズをするサバージュ選手=小浜誓撮影

 自らの特性とレース展開を知り尽くしたルイーズ・サバージュ(27)が一枚上手だった。女子五千b(車いす)決勝で土田和歌子(26)と畑中和(31)は残り500b付近まで交互にトップをキープしたが、サバージュの強烈なスパートに敗れ去った。
 向かい風をもろに受ける先頭を2人で「ローテー(交代)」し続け、逃げ切りでワンツー・フィニッシュを狙った。2年前、長野冬季大会で金を含む4つのメダルを獲得した後、陸上に転向した土田。夏は初出場ながら、得意の5000bでは「自分で流れを作って金を」と心に決めていた。しかし、この日はそれを意識しすぎた。
 「行き過ぎや」。途中、畑中がハイペースに気づき土田に声をかけたが、もう遅かった。残り1周半で、サバージュが猛然とダッシュをかけた。持久力の強化を図り、持ち前のラストスパートにかけるサバージュのしたたかな作戦。2人はもうばん回がきかなかった。 「日本の2人は何度も果敢に飛び出して、付いていくのがきつかった。でも終始、私がレースを手中にしていると感じていた」。ゴールしたサバージュの言葉には自信があふれていた。
 子どものころ、台車に腹ばいに乗ってスピードを出して動き回るのが大好きだった。腕を使って動き回っていたことが、現在の上身の強さの素地を作った。
 週6日、午前6時半に起きて、シドニー近郊の高速道路などを使い、黙々と25`を走り抜く。豪州中の期待を受けた今大会、開会式の聖火最終点火者の栄誉を受けた。レースでは中長距離に満を持していた。バルセロナ大会から通算9個目の金メダルに、「シドニーだから、一番特別」と観衆の大声援に手を振った。

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11日の主な記録(共同)

陸上 男子1500b決勝(知的障害) @ポール・ミッチェル(豪  州)
D原田  歩     (石  川)
パ新  3分57秒23
     4分 9秒49
男子100b決勝(車いす3) @ジェフ・トラペット (豪  州)
F永尾 嘉章    (兵  庫)
14秒46
15秒16
男子三段跳び決勝(視覚障害1) @マヌエル・ロドリゲス(スペイン)
E今井 裕二 (兵  庫)       
   12b38
  11b07
男子400bリレー決勝(視覚障害) @イタリア               
A日本(高田、斉藤、星野、矢野)   
パ新  44秒77
44秒99
女子5000b決勝(車いす) @ルイーズ・サバージュ(豪  州)
C土田和歌子      (東  京)
D畑中  和       (兵  庫)
     12分46秒26
 12分47秒24
12分47秒40
女子400b決勝(車いす1) @リサ・フランクス(カ ナダ)
B要田 美紀   (東  京)    
   1分16秒26
  1分23秒27
競泳 男子50b自由形決勝(視覚障害1) @河合 純一 (静  岡)         パ新 26秒37
男子50b自由形決勝(視覚障害2) @エーベルト・クレインハンス(南アフリカ)
E酒井 喜和 (兵  庫)          
世新 25秒79
 26秒82
男子400bメドレーリレー決勝(視覚障害) @日本(酒井、中条、河合、杉田)    世新 4分31秒26
馬術 団体総合成績 @英  国               
J日  本(渡辺、菊地、吉田)   
   427.42点
    350.42点

 ◇…バスケットボール…◇
▽車いす男子9、10位決定戦
  日本 56 30−28 55 メキシコ
26−27

 ◇…卓 球…◇
▽男子シングルス準々決勝(運動機能障害2、車いす)
金珙竜  2 22−20 0 皆見信博
(韓 国)  21−15   (香 川)

 ◇…競 泳…◇
▽男子50b自由形予選(運動機能障害5)
3組」C前田大介(長野)35秒49=落選
▽女子五十b自由形予選(運動機能障害5)
2組」奈良恵里加(群馬)=棄権
▽男子50b自由形予選(運動機能障害6)
「1組」C細川宏史(三重)32秒59=落選
▽男子50b自由形予選(視覚障害2)
「2組」E杉田好士郎(千葉)27秒77=落選
▽男子200bメドレーリレー予選(運動機能障害)
「2組」E日本(本村、軽部、浜村、井上)3分26秒98=落選
▽男子400bメドレーリレー予選(運動機能障害)
「1組」E日本(本村、荒、前田、細川)5分34秒05=落選

 ◇…陸 上…◇
▽男子100b準決勝(視覚障害2)
「1組」C矢野繁樹(東京)11秒85=落選

 

★セット落とさずイラン4連覇★

 バレーボール座位は、イランが高いブロック、頭脳的な攻めで欧州チャンピオンのボスニア・ヘルツェゴビナを3−0で破り、4連覇を成し遂げた。予選を通じて1セットも落とさない完全勝利。イラクとの戦争で両足と片目を失った首相のアリ・カシュフィア(36)は「厳しい練習を重ねた成果。とても嬉しい」と喜んだ。
 イランでは全国80チームが3部に分かれてリーグ戦を展開。障害者スポーツとして最も人気を集めている。

※バレーボール座位

 切断、脳性まひなどの人が対象。一般のバレーボールより小さい10b×6bのコートを使用。ネットの高さは男子が1.15b、女子が1.05b。座った状態で打ち合う。ボールを打つ際は、床におしりの一部を接触させていることが必要で、立ち上がったり、跳びはねたりすると反則になる。 

100分の7秒差 劇的な再逆転★

 日本、競泳リレー「金」
 「ニッポン、ナンバーワーン!!」。4人の喜びが爆発した。
 競泳男子4×100bメドレーリレーで、日本は世界記録を8秒近く更新して金メダル。レースは英国との激しい競り合いとなった。
 背泳ぎの酒井喜和(18)、平泳ぎの中条泰治(35)がトップをキープ。バタフライの河合純一(25)が英国選手に逆転され1秒余りの差をつけられたが、自由形のアンカー杉田好士郎(23)が再逆転した。その差わずか0秒07。
 酒井は「後ろに大きい先輩たちがいるので、安心して泳いだ」。杉田は「全力で泳ぐことしか考えていなかった」と興奮ぎみだった。

★残り6秒で逆転★

 バスケットボール車いす男子の9位決定戦は、メキシコを相手に白熱したシーソーゲームとなった。1点リードされた後半残り6秒で、メキシコ側がファウル。フリースローに臨んだ是友京介(30)がきっちり2本とも入れて逆転。そのまま56−55で逃げ切った。
 試合終了後、是友は「入ることだけを考えた」と安どの表情を浮かべながらも、「ディフェンスに関しては全然だめだった。もっともっと、ゲームをコントロールできなければ」としきりに反省していた。

大会参加費選手の重しに

 バラリンピックにあってオリンピックにないものがある。選手役員が支払う「大会参加費」だ。毎回値上がりしてシドニー大会では600j(約6万5000円)。
 「選手は月5jの手当で練習に励む。生活だってままならないのに、何で参加費など払えるのか」。アルメニア選手団のサルディサン団長代理は言う。選手団8人の参加は、アトランタ大会時の縁で米国のアルメニア移民が4800j(約52万円)の募金をかき集めて実現した。
 五輪では、商業化が進んだ80年代に選手の負担金は姿を消し、96年アトランタ五輪以降は招致公約で渡航費も開催都市側が負担している。しかし潤沢な収入がないパラリンピックでは、運営費負担が参加費として選手にかかる。
 日々の練習以外に、ダンス会を開くなど資金集めの苦労を強いられる選手たちもいる。国際パラリンピック委員会の支援金で参加したザンビアのマラソン選手シンカンバ(31)は、「五輪選手が払わないのに僕らが払うのは不公平。途上国出身の僕らには、そんなお金を出すのは不可能だ」。参加費確保がバラリンピック選手のもうひとつの闘いとしたら、割り切れなさが残る。 (結城 和香子)

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