読売新聞−2000年(平成12年)10月29日(日)

●谷口政春さんのケアノート 7

痴呆でも安心な社会に−介護保険なお課題

 介護保険で妻は要介護5の認定を受けました。費用負担は軽くなりましたが、支援が堀川病院元院長 谷口先生手厚くなったわけではありません。ホームヘルパーはケアプランで決められた時間に来るだけ。時間契約だから、当然かもしれません。でも、帰った後も助けて欲しいことが超こるんです。

 実際、何年か前、妻の失禁でパニックになってヘルパーに電話したことがあります。すぐ駆け付けてくれ、とても助かりました。在宅介護は私一人ではできません。ヘルパーや娘、ボランティアの支えがあって成り立っている。困った時に、ほんの少しの時間、来てくれればまた一、二か月頑張れるんです。

 でも、介護保険にはそんな視点がない。介護保険が何のための制度か原点に戻って考えれば、もっと柔軟なシステムになるはず。これから制度を成熟させていき、だれもが在宅ケアできるようにするべきでしょう。

 今年は痴呆の人の人権を取り戻す元年だと思います。痴呆というのは長い人生の中で必ず通る道です。かつて、痴呆の人は社会から隔離されました。オープンでないから差別や偏見が根強い。僕は、妻がアルツハイマー型痴呆症だと近所の人に隠さず言っている。数人の患者とスタッフが市街地の民家で募らすグループホームなんかがもっと増えれば、社会の見方も変わってくるでしょう。

 妻を通して、痴呆になっても安心して募らせる社会を作るための手助けができればと思い、「呆け老人をかかえる家族の会」でも、みんなに体験を伝えています。医学的なことも説明し、お役に立てればうれしい。

     (堀川病院元院長)

   (聞き手・野間 裕子)

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