毎日新聞−2000年(平成12年)10月27日(金)

「心のケア」社会にアピール

病気や災害、自殺で親を失った子どもを支援する「あしなが育英会」(玉井義臣会長、本部・東京都千代田区)の第61回あしなが学生募金が22日から、県内各地で始まった。これまで同育英会は病気孤児のために進学に際して経済的支援を行ってきたが、阪神大震災に伴う災害遺児の発生や、近年の自殺者増加による「自死遺児」の急増で、新たに「心のケア」という課題が出てきた。同募金事務局の県代表を務める小泉彰さんに活動の現状などを聞いた。

                       【聞き手・飯山太郎】

−「あしなが育英会」はどんな活動をしているのでしょうか。

 交通事故以外で親をなくした子どもたちに奨学金を出して進学支援をしています。また、夏に奨学生の集いを開き、同じ悩みを持つ仲間が集まって、お互いに背負っているものを打ち明け、いやし合う場を設けています。阪神大震災で親を亡くした子どもたちの心のケアをする拠点として、神戸市に「レインボーハウス」も開設しました。現在はこれをモデルに、病気や自殺などあらゆる理由で親を失った子どもが心をいやせる場として「東京レインボーハウス」の建設へ向けても募金活動を始めています。

−小泉さんは、どうして活動に加わることになったんですか。

 高校時代から奨学金をもらっていたのですが、正直言って大学1年まで募金活動についてはよく知りませんでした。この年、夏休みに山梨県敷島町の実家に帰ったついでに山中湖で行われた集いに初めて参加しました。そこで同じ境遇の高校生や大学生の話を聞き、自分の体験も語ったのですが、なぜか素直に話せ、すっきりしました。
 仙台で一人暮らしを始めた当時、収入の少ない実家の家計を考えると、「家を出たのは果たして良かったのか」と悩みました。しかし自分と同じような悩みを抱え、苦しんでいる仲間に触れる中で、「答えが見つからないのは普通なんだ」と思えるようになり、とても心強かった。集いに行く前は「かったるい」と思っていたのですが、この時以来「こういう場を設ける活動をやめるわけにはいかない」と思い、募金活動などに参加するようになりました。

−現在の育英会の課題は何でしょうか。

 育英会は発足から12年で1万97人(今夏現在)の進学者を支援しました。遺児の家庭の平均月収は14万円程度です。その家庭環境で高校や大学へ進学する難しさや、支援の必要性は普通の人にも理解しやすいものでした。すべての遺児への進学支援までには及ばないものの、ある程度の成果は上げていると思います。
 しかし1999年の自殺者が3万3000人を超え、「自死遺児」も年間1万2000人ペースで増えている中、親を自殺で失った遺児への心の支援が急務となっています。心のケアの充実と、ケアに当たれる人材を養成するのが東京レインボーハウスです。

−「心のケア」とは具体的にはどんなことをするのですか。

 自殺した人は「人生の落ちこぼれ」と見られがちです。子どもは自分の親の死についてだれにも語れないのです。知り合いの奨学生が小さな村に住んでいるのですが、村の中で「自殺をした家だ」と陰口をたたかれ、「自分のことを知られていない土地へ行きたい」とまで言って、苦しんでいます。病気で親を亡くした私なんかも、その奨学生にどう接すればいいのか分からないのですが、それでも話を聞き、「親を亡くした」という共通の体験を持つ者同士が触れ合うだけで、人生に前向きになってきます。育英会は今後、進学支援を続けるとともに、この心のケアの必要性を「いかに分かりやすく社会に訴えていくか」について考えていきたいと思います。

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