読売新聞−2000年(平成12年)10月09日(祝)

『1万歩』で寿命延びる

心疾患遠ざけ生活習慣病防止
運動量300`・iで好影響−大またで 中年男性、100分が目安

 手軽なスポーツ、エクササイズとしてウォーキングが認知されて久しい。一方で「本当に歩くだけで健康が保てるの?」という疑心暗鬼の声もちらほら。なぜウォーキングが健康にいいのか。外を歩くのにはぴったりの季節だから、きちんとおさらいしておきますか。

 日常的にウオ→キングをしている人は、大多数が1日1万歩を目標にしている。

 なぜ1万歩なのか?

 35年の歴史を持つウォーキングの愛好団体、財団法人「日本万歩クラブ」の発足当初、1万歩という歩数目標には、とくに理論的な根拠があったわけではなかった。「名称の由来ははっきりしませんが、言葉の響きの良さなども手伝ったと思います」(佐川吉彦・同クラブ事務局長) だが、この命名者には先見性が会ったようだ。1日に1万歩という運動量は、実に的を射た数字だったのだ。

 カナダ・トロント大学のシェパード教授は身体的な動きの多い職種と、事務職など動きが少ない人との間には、心疾患にかかる率に明確な違いがあることに着目。両者の作業にともなう消費エネルギー差が、1日あたり200〜500`・iであることを1976年に指摘した。

 さらに米国・スタンフォード大のバッフェンバーガー教授は、1週間に2000`・i程度の身体運動を継続的に行う人は、そうでない人より長命なことを発表した。

 いずれも、運動不足の悪影響を指摘しており、1日に300`・i程度の積極的な運動が、心疾患から遠ざけ、長寿へと導く効果があることを物語っている。

 300`・iを消費する歩数が約1万歩なのだ。標準的な体格の中年男性が分速70〜80bで歩行すると約30歩で1`・iを消費。1万歩で300`・iとなり、1日の必要運動量に達する。

 ウォーキングの効果は運動不足解消だけではない。バッフェンバーガー教授は、人間の生活習慣を6項目挙げ、それぞれの項目が何年ずつ寿命に影響するのか、疫学的調査で示した。=下表=

寿命の長さに影響を及ぼす日常習慣など
・運動習慣(2000`・i/週)がある +1,3
・高血圧でない +2.7
・肥満(体重が平均体重の10%増し以上)でない +1.1
・ストレス(心配事など)がない 2.7
・習慣喫煙がない 2.3
・長寿の家系である 0.8
(バッフェンバーカー論文による)

 日常的にウォーキングを続けることで、6項目のうち「喫煙習慣」「長寿家系」を除く4項目でマイナス要因を改善できる。同教授の試算では、4項目をクリアすれば、7.8年もの寿命延期が可能となる。

 血中脂肪、血圧、体重のコントロールができるだけでなく、ストレス解消、食欲促進、便秘解消、熟睡など現代人が抱える健康上の悩みに対して、大きな改善が期待できるのもウォーキングの長所だ。

 九州保健福祉大の波多野義郎教授は「自分のペースを守りながら血糖値の数値が高い人などには劇的な効果がある」と強調する。

 ところで、1日1万歩といわれても、未経験者には実感がわきにくい。成人男性が通常のスピードで歩くと1分間で100歩前後になることから、約100分間、歩き続けることが必要だ。少し早歩きなら80分前後。あまりダラダラ歩いても、効果は少ないので、腕を振って大またで歩くように心がけたい。

 なかなか大変? 心配ご無用だ。1日の総合歩数が1万歩に達すればいい。通勤や外出時に7000歩消化したら、あと30分間、意識的に歩けばノルマ達成。1回に歩く時間が15分以上になれば、数回に分けて実行してもいいのだから、気楽に考えよう。

 暇な時間にいつでもできるし、仲間とおしゃべりしながちでもいい。心臓発作を起こしたり、ひざを痛めたりという、ほかの運動につきまといがちな心配も極めて少ない。

 いいことずくめのウォーキング。秋の澄んだ空気の中、始めてみてはいかが。
                                                                       染谷 一

☆ウォーキングの特性☆
1.初心者、高齢者、有傷病者にも特別な努力をせずに参加できる
2.長時間続けることができて、十分なエネルギー消費が期待できる
3.一人でも、仲間と一緒でも実行できる
4.いつでも自由な時間に実施できる
5.必要な道具はシューズだけ
(波多野義郎教授による)

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