毎日新聞−2000年(平成12年)10月02日(月)

介護保険半年

−現場からD−『地域で重み増すNPO』(高齢者負担を前に)

 「ちょっと待って下さいね」。千葉県流山市で娘と募らす野口美代さん(77)宅を訪れたホームヘルパーが部屋の掃除を終えた後、エプロンをブルーからグリーンに替えた。お茶を入れて、話し相手をつとめる。時には外出も手伝う。野口さんは心臓に持病があり、要支援と認定されている。
 「ブルーのエプロンを着ているときは介護保健サービス。保険の枠外の触れ合いサービスをする時はグリーンのエプロンに著替えています。採算面を考えたらできないが、ボランティアだから、できるんです」と、流山市のNPO法人(特定非営利活動法人)「流山ユー・アイ ネット」代表の米山孝平さんは説明する。同ネットは地域に住む退職者や主婦らで組織している。会員は733人。昨年4月、千葉県からNPO法人の認証を受け、介護保険の事業者に参入した。
 介護保険で受けられる家事援助は炊事や部屋の掃除などに限られる。厚生省や与党のプロジェクトチームは、庭の草むしり、犬の散歩などを不適正な事例として示したが、保険の枠外のサービスを同じヘルパーに望む利用者は多い。

 同ネットは要介護認定された55人に身体介護などを含むサービスを提供するだけでなく、要介護認定から漏れた人や保険の枠外サービスを待望する人には有償で「ふれ合いサービス」を提供している。利用者は1時問800円の時間預託チケットを購入する。介護サービスを行う会員は謝礼分をプールしておけば、自分の介護が必要になった時、それを使ってサービスを受けられる。野口さんも会員で、元気な時はボランティアとして 活動していた。今、その時の預託チケットを使っている。「本当に助かっている」と喜ぶ。実費分だけをもらって福祉サービスを提供する住民参加型の福祉団体は全国で1,600を超す。だが介護保険の在宅サービス事業者36,595(7月1日現在)のうち、NPO法人は474にとどまっている。事務所の設置や経費の公開などが必要で、税制面での優遇などメリットが少ないことが影響している。

 東京都町田市で実験的な取り組みが行われている。同市が6億4,000万円をかけて都有地に建てた「高齢者サービスセンター」の管理・運営を玉川学園地域のNPO法人「桜美会」(松本七郎理事長)に委託した。地元の自治会などを中心に組織されたNPOで、今年5月からセンターを拠点に介護保険のディサービスや訪問介護、保険枠外のサービスも行っている。同市は初年度、4,900万円の運営費の補助金を支出する。
 金子好雄・市健康福祉部長は「これからの高齢社会は行政と住民が協力して地域福祉を担っていかなければ、行政だけではもう間に合わない。住民にも自分たちで地域のサービスを運営していこうという意識があった」と語る。
 介護保険がスタートしてNPOを支援する条例を作ったり、サポートセンターを設置する自治体が増えている。横浜市はNPOに事務所運営賛などの直接補助金を出す制度を作った。しかし町田市のように一歩踏み込んだケースはまだ少ない。NPOの側にも、行政がコスト削減のためにNPOに仕事の肩代わりをさせるのではないかとの疑念がつきまとっている。
 NPO法人事業者のネットワーク、市民互助団体全国協議会の田中尚輝・事務局長は「NPO法人に、非営利的な農協や生協なども含めると介護保険事業者全体の1割近くを占め、仕事の依頼も増えている。ニーズに応えるためにも、税制面の優遇など行政がもっと理解を深め、NPO側もマネジメント能力を高める努力が必要だ」という。
 住民と行政がパートナーとして地域福祉を担っていく試みは、一歩、踏み出したばかりだ。

メモ
 NPO法人は1998年12月施行のNPO法で、都道府県などの認証を受けたNPO。経済企画庁の調べでは2,594件が認証され、6割近くを保険・福祉分野が占める。
 介護保険では、指定基準の条件を満たしたNPO法人は、都道府県の指定事業者として介護保険に参入できる。指定基準を満たしていないボランティア団体も、市町村が認めれば、地域内で訪問介護サービスなどができる。この場合、いったん利用者が利用料全額を立て替え払いし、自己負担分を除く9割が後で償還払いされる。

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