アレルギーっ子の生活

<06-14      2001年07月28日(土)公開>

【アナフィラキシーショック死亡例】

 私は小児循環器が専門です。循環器にいますと、突然死の症例を時々経験します。88年5月、過去に気管支喘息があり、ダニ、スギ・カモガヤ花粉にアレルギーのある中学生が、学校のリレーの練習中突然死しました。遺体を解剖させていただきましたが結局死因は不明。運動誘発性アナフィラキシーを強く疑いました。この症例をきっかけに、突然死とアレルギー性疾患との間に何か関係があるのかという疑問を持ちながら診療を行ってきました。

 91年5月、急激に発症し、死亡した高校生を経験しましたが、いろいろ調べていくとどうも過労、感染、花粉症が重なった状況の中で、アレルギーがあるのを知らずに食べた菓子パンと缶コーヒーが発症の直接の引き金になったものと考えられました。さらに、これらに含まれる食品添加物がアレルギーを異常に悪化させ、急激な症状を招いた可能性も考えられました。では、経験した症例の経過を見てみましょう。

 15才、高校1年生、男子です。家族にはお父さんやお母さん、おじいちゃんにアレルギー性鼻炎・花粉症・気管支喘息などがあり、遺伝的にアレルギーの体質を持っています。過去に滲出性中耳炎、蓄膿症、じんましん、気管支喘息(中学2年まであり)、10才時かぜ薬(薬品名不明)で発疹。90年夏ごろより徐々に太りだし、52kgから9167kgになりました。同じ頃より、めまいをよく訴えるようになり、耳鼻科受診し精査したが異常なし。90年秋から夜中に眠れずに2〜3回起きてくるようになりました。非常に疲れやすい体質でした。その他以下の症状や病気によくなったそうです。咳・痰・鼻づまり・吐く・腹痛・下痢・舌が荒れる・口内炎・扁挑腺炎・副鼻腔炎・車酔い

 91年4月高校入学。ギター部と応援団に所属し、4月末から5月初めは野球の試合の応援が続きました。応援団員の話では患児にはかなり大変だった様子でした。家では、体が痛いとよく言っていたそうです。家族の方は心配しながらも、一生懸命やっているので本人に任せておいたようでした。5月になり一度発熱し、応援練習休み。数日後、久々の喘息発作で休み。高校総体壮行会、ギター部定期演奏会と続き、この頃から疲れが目立っていたようでした。5月下旬のある日、授業後にいつものように、応援団の練習をしました。応援団員の方の話では、腹筋がうまくできず、3年生が足をもって手助けをしたそうです。1〜2回やったが出来そうもなく、手で膝のズボンをもって起き上がりました。自分の体重が支えられないような感じで後ろに倒れゴツンと音をたてたそうです。その後、何とか最後まで自分でやりました。練習終了後高校前の24時間ストアーに立ち寄りました。店に入ってから倒れるまでの全経過が店の防犯ビデオに撮影されていました。

食べた菓子パン(チョコレート、あん、クリームの入った3色パン)
品名:菓子パン
   原材料名:こしあん・フラワーペースト・チョコレートフラワーペースト・
        小麦粉・砂糖・油脂・ブドウ糖果糖液糖・イースト・乳清・食塩
     植物性たん白・乳化剤・イーストフード・ビタミンC・
     保存料(ソルビン酸K)・着色料(カロチン・カラメル)・
     酸味料・増粘多糖類・香料
飲んだ缶コーヒーの成分
品名:コーヒー飲料
原材料名:砂糖、コーヒー、脂粉乳、
全粉乳、カラメル色素
乳化剤、食塩

(店の防犯ビデオより)多少疲れた足取りで店に入ってきます。何回か選びなおし最後にはチョコレートの入った菓子パンと缶コーヒーを選びました。店にあるイスに座って、たべはじめます。途中一度立ち上がりパンの包装を捨てます。特に変わった様子は見られません。また座り、缶コーヒーを飲みます。再度立ち上がり、空き缶をゴミ箱に捨てます。店を出ようと歩きますがまともに歩けず、ふらつきながら店のドアを開けて、外に出ます。外に出た途端、前のめりに倒れます。コーヒーとパンを摂取し4分30秒後のことです。倒れて15秒後、足にけいれん様の動きがみられます。すぐそばにいた、先輩たちが声をかけたが返事せず。人が集まり、人工呼吸をします。倒れて約7分後、救急車到着。当院へ搬入されました。

 来院時、意識なし、脈は触知せず、呼吸はわずかにあり。心電図モニター上心臓はわずかに動いていましたが、数分後に心停止となりました。じんましんや浮腫ははっきりせず。気管内挿管しましたが、呼吸抵抗高く、アンビューバッグが破けてしまいました(呼吸困難が強いということです)。5分後心臓が再び動きだしましたが、その後、けいれん出現。体温は38℃ありました。

 血液検査の結果では、何らかの細菌感染を疑わせる所見がありました。

 胸部レントゲン写真、頭部断層写真などから、肺水腫(肺のむくみ)、脳浮腫(脳のむくみ)がありました。翌日には全身のむくみ、全身の紅斑(全身が赤くなる)、鼻の粘膜のむくみがみられました。また、抗生物質に対するアレルギーもあることが分かりました。第5病日に脳波平坦となり、第20病日、永眠されました。

項目 結果
IgERIST
IgERAST
チョコレート
卵白
コーヒー
黒コショウ
ピーナッツ
小麦

バナナ
ダニ1
カモガヤ
ハンノキ
シラカンバ
動物上皮
イネ科花粉
1430

0.7(2)
0.6(1)
0.5(1)
0.5(1)
0.5(1)
0.4(1)
0.4(1)
0.4(1)
17.5(4)
1.3(2)
0.5(1)
0.4(1)
0.5(1)
1.0(2)

( )RAST SIST CAPスコアー

 アレルギーの検査で、特異IgEではダニは強陽性、食物抗原・吸入性抗原とも、発症直後は陰性でしたが、2週間後には全体的に上昇し、特にチョコレートとカモガヤ花粉、イネ科花粉はスコア2まで上昇していました。発症に何らかの関与があったと考えられました。

 死因については、発症直前の心臓検診の心電図・胸部レントゲンは正常。発症後の経過を見ても心臓死は考えられません。代謝や内分泌の異常については不明です。気管内挿管後の加圧時の異常な抵抗の高さ、全身の著明な浮腫、肺水腫、脳浮腫がみられアレルギー的な因子の関与が考えられます。しかし、患児は普段にもチョコレートの入ったパンも食べていますのでチョコレートのみでこのような事態になるとは考えられません。

1)応援の練習や新入学等の疲れがたまっていたところに、2)カモガヤ等イネ科花粉の飛散の季節になり花粉症を起こしていた、3)細菌感染を起こし、反応性が亢進していたものと思われます。4)そこへ、チョコレートの入ったパンなどアレルギーがある食品を食べて急激に発症した可能性が考えられます。また、5)パン・コーヒーに含まれる界面活性剤つまり乳化剤によって粘膜表面からの高分子物質(アレルギーを起こしやすい物質)の吸収が促進されアレルギー反応を強くさせた可能性があります。6)保存剤のソルビン酸に対する反応も考えられます。ソルビン酸はそのものが強い反応を起こす可能性があります(かぜ薬などに含まれる解熱鎮痛剤で症状を起こす人は、保存剤、合成着色剤、人工香料などでも同じように症状を起こすことがあります。この症例もかぜ薬で発疹を起こした事があります)。

 最近、心臓外来を訪れる子ども達の中に、アレルギーが原因と考えられる症例が増えています。胸が痛い、意識が低下し倒れる、動悸がする等の症状で来院した子ども達に心臓の病気は発見されず、見つかるのは、肺機能の低下、ダニアレルギー、花粉症、食物アレルギー、食品添加物や解熱鎮痛剤による異常反応ばかりです。特に中学生以降になると症状を訴える人が多くなるのは、今の中学生から大学生の生活が、ストレスが多く、生活リズムが乱れ、食生活も加工食品・砂糖・お菓子漬けになっていることと関係があるのではないでしょうか?

 調子の良い時期、つまり、アレルギー状態にない時に食べて症状が出ない物でも、花粉やダニなど他のアレルギーがある時期、疲労状態にある時、感染を起こし免疫能が落ちている時などに食べると強い症状を出す場合があると思われます。中学・高校生以上になったら、その人それぞれのアレルギーの季節を知っておくこと、その時期には、過労・寝不足、無理な運動などを避けて、規則正しい生活をする事、だめな食物−この年齢ではチョコレート、コーヒー、ピーナッツ、スナック菓子、バナナ、グレープフルーツ、オレンジ、キウイなどの嗜好品や、エビ、イカ、貝、小麦、保存剤が多量に使われた食品、乳化剤が入った食品(アイスクリーム、チョコレート、マーガリン、パン、インスタント食品、ピーナッツバター、卵など)など食品添加物の多い加工食品など−をきちんと知っていて、危ない季節、特に疲れている時には食べないようにすることが大切と思われました。つまり、アレルギー予防のための正しい食生活の知識が、急に倒れるという症状を出しやすい中学生以上の子ども達には是非必要と思われました。今回の症例は非常に残念な結果でしたが、この子に教えてもらった事を教訓に、同じ悲しみを繰り返えさないようにしたいものです。

まとめると次のように考えられます。

1)応援の練習や新入学等の疲れがたまっていた
2)カモガヤ等イネ科花粉の飛散の季節になり花粉症を起こしていた
3)細菌感染を起こし、反応性が亢進していた
4)チョコレートの入ったパンなどアレルギーがある食品を食べて急激に発症した可能性
5)パン・コーヒーに含まれる界面活性剤つまり乳化剤によって粘膜表面からの高分子物(アレルギーを起こしやすい物質)の吸収が促進されアレルギー反応を強くさせた可能性
6)保存剤のソルビン酸に対する反応も考えられます。ソルビン酸はそのものが強い反応を起こす可能性があります。
 かぜ薬などに含まれる解熱鎮痛剤で症状を起こす人は、保存剤、合成着色剤、人工香料などでも同じように症状を起こすことがあります。この症例もかぜ薬で発疹を起こした事がありました。花粉やダニなど他のアレルギーがある時期、疲労状態にある時、感染を起こし免疫能が落ちている時などに、アレルギーの食品を食べると強い症状を出す場合がありえます。

予防法として考えられること

1)中学・高校生以上になったら、その人それぞれのアレルギーの季節(ダニや花粉)を知っておくこと
2)その時期には、過労・寝不足、無理な運動などを避けて、規則正しい生活をすること
3)だめな食物をきちんと知っていて、危ない季節、特に疲れている時には食べないようにすること。この年齢では小麦、エビ、イカ、貝。チョコレート、コーヒー、ピーナッツ、キウイ、バナナ、グレープフルーツ、オレンジ、スナック菓子などの嗜好品。保存剤が多量に使われた食品、乳化剤が入った食品、食品添加物の多い加工食品などの知識が必要です。

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