アレルギーっ子の生活

<04-11      2001年04月21日公開>

【油(油脂)の食べ方】

 食品を食べる時に常に注意を払わなければいけない非常に大切な項目です。油脂の種類による食べ方、油脂の酸化の問題、環境汚染化学物質(脂溶性の環境ホルモン物質など)の順にみてみましょう。

・食べる油脂の種類の違い

 油脂の食べ方によって、起こる病気の種類と程度(病気の重さ)が変わることがわかってきています。実際、アレルギーを起こしている方たちの食べ方を日記に書いてきてもらうと、アレルギーがひどい人と軽い人では油脂の食べ方にかなりの差があります。どんな食べ方をしたら、アレルギーが軽くなるのでしょうか?

 私たちが食べている油に含まれる脂肪酸(油は脂肪酸とグリセリンがくっついてできています)を機能別に分けると、図のように大きく3つになります。

飽和脂肪酸・オレイン酸など
リノール酸・アラキドン酸など
αリノレン酸・EPA・DHAなど

@飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸オレイン酸など。獣肉(牛、鶏、豚など)や卵、牛乳などの動物性食品に含まれる脂肪酸です。食べなくても、炭水化物や蛋白質から体の中で作り出すことができます。エネルギーのもとになります。たくさん食べ過ぎると肥満や動脈硬化など成人病(生活習慣病)の危険因子を増やします。また、乳癌や大腸癌の発生を高めることが疫学調査でわかっています。もちろん、アレルギーっ子には大敵なものです。そのため、食べ過ぎを控えることが大切です。肉の大好きなアメリカでさえ控えるように指導が変わってきています。

Aリノール酸・アラキドン酸。食用植物性油脂(大豆油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、ごま油などに多い)、卵、バター、チーズ、肉の脂身などに多く含まれます。成長や皮膚を正常に保つ働きがあります。ヒトはこの油を体内で合成できないので食べなければいけない必須脂肪酸ですが、一日に必要な量はごはんを2杯食べれば足ります。数年前まで成人病の予防のためにリノール酸を多く取るように言われていました。しかし、診療の現場ではアレルギーの患者さんたちはリノール酸が多いと症状が強くなるため、アレルギー外来ではなるべく食べないようにと指導し、矛盾をかかえていました。1990年前半に、北欧の長期にわたる調査結果が出て、決着がつきました。リノール酸を食べるように指導されなかった人たちに比べて、指導され実行した人たちは成人病の発生が高いことがわかったのです。コレステロールを良い傾向にする働きは一過性で長期的には悪い傾向になることがわかってきました。リノール酸とその生産物であるアラキドン酸から生成された物質は、アレルギーや熱・痛み・むくみ・赤みをひどくさせます。アレルギーの子供達の反応は正しかったのです。

 アラキドン酸から生成された物質が起こす反応を押さえるために、使う薬は何か知っていますか? そう、解熱鎮痛剤(アスピリンなど)や副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤ですね。リノール酸をたくさん食べる人は病気の程度が重くなり、病気になった時は痛み止めや熱さましを使わないと苦しくて我慢できません。リノール酸をあまり食べない人は、そんな薬を使わなくても、軽く病気を過ごせます。アレルギーのある人はリノール酸の含まれる食品をなるべく食べないようにすることが大切です。

Bα―リノレン酸、アイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)。野菜、エゴマ、海草、魚、貝などに含まれます。この脂肪酸はリノール酸の良くない反応を押さえます。脳の記憶や判断の働き、目の網膜の働きを高く保つ働きがあるため、一時期急に「頭がよくなる」と宣伝され、DHAがいっぱい入っているとしてマグロの目玉の缶詰まで売り出されました。この油は、アレルギーや成人病の予防のためには多めに食べて欲しいのですが、酸化しやすく、酸化した油は過酸化脂質となってアレルギーや成人病の引き金となり、症状を悪化させるため、新鮮なままで食べなければいけません。魚は、死んだ瞬間から酸化が進みます。食べ過ぎはあまり良くありません。

 アレルギー体質の人は魚を食べた方が良いと宣伝され、魚を多食する人が増えました。ところが、困ったことに魚のアレルギーが急増中なのです。ここ10年ほどで、赤ちゃんや低年齢の子供たちを中心に魚にアレルギーを起こした人たちがどんどん増えています。アレルギーの子供たちが魚介類に起きている何かを感じ取っている。魚の汚染が進んでいるのではないか? アレルギーの診療をしていて強く感じていました。そして、現在では、魚の油脂や卵はダイオキシン類やPCB(ポリ塩化ビフェニール),DDTなど脂溶性の環境汚染物質によって汚染がひどくなってきていることがわかってきたのです。魚介類は食べる量や汚染度に注意を払わなければいけません。外来では、野菜や海草を充分食べるように勧めてきました。野菜や海草の中には酸化を押さえる物質が多量含まれるため、油が酸化しにくくなっています。野菜や海草をいっぱい食べて下さい。酸化していない、新鮮なα―リノレン酸をたくさん食べましょう。

<アレルギーを起こしやすくする油脂食品>

古くなった植物性油脂
古くなった肉や魚の脂(あぶら)
植物性油を使った料理(いためもの、揚げ物)
インスタント食品カップラーメン、カレールウなど)
冷凍食品、レトルト食品
マヨネーズ、オイルドレッシング
マーガリン、ショートニング
油を使ったスナック菓子(ポテトチップス、エビセン、揚げせんべいなど)
アイスクリーム、チョコレートなど

・酸化した油脂はなるべく食べない

食品加工、または放置することで酸化した油脂は、空気中の酸素と反応して過酸化脂質となり、細胞を傷つけ、アレルギーを悪化させます。古い油、加工品に注意しましょう。

・油脂の食べ過ぎは汚染を招きます

 油脂の多い食品を多量に食べると脂溶性の汚染物質を体内に取り入れることになります。塩素が含まれる合成樹脂(塩化ビニールや塩化ビニリデン)などを燃やすと地上最強の発癌物質と言われるダイオキシン類が発生し、地上に降り注ぎます。ダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニール)やDDT(有機塩素系殺虫剤)等の環境汚染物質は食物連鎖の鎖の中で濃度が上がり、生き物たちの油脂(体脂肪)に蓄積されます。

日本における食品中のダイオキシン類
(ダイオキシンとダイベンゾフラン)の平均濃度
(しのびよるダイオキシン汚染、長山淳哉、講談社より)
食  品 1グラム当りの濃度(pg)
魚  介  類 1.2
牛乳・乳製品  0.16
肉 ・ 卵  類  0.14
油  脂  類  0.18
緑色野菜  0.17
その他の野菜・海藻  0.01
豆     類  0.02
穀     類   0.001
  0.002
果     物   0.004

 汚染された油脂を食べることで私達の体は汚染され、健康は破壊されてしまいます。これらの汚染物質は環境ホルモン(外因性内分泌かく乱化学物質)といわれています。体内に入ると内分泌かく乱物質として働き正常な内分泌作用を乱し、胎児に作用することで、生まれてきた子供たちに行動異常(多動、学習障害、乱暴な行動、過剰な反応など)・アレルギーの激化・生殖機能の低下・子育て能力の低下などを起こす可能性が疑われています。また、激しい運動、疲労が重なった時、感染症などの病気になって食べられなくなった時、食生活の乱れ、妊娠・授乳などの過酷な状態になり体内脂肪をエネルギー源として利用しなければいけなくなった時、脂肪中に蓄積された汚染物質は一気に体内に放出され急激に体調を悪くさせる可能性があります。
 これらの汚染を起こしている食品は同時にアレルギーの原因となる食べ物と重なります。汚染された食品を食べることで内分泌や神経、免疫の異常、アレルギー反応の異常を誘発し、体の防衛のためにアレルギーを起こして食べることを拒否し、それらの食品が体に入らないようにしているようにみえます。
 アレルギーっ子たちが嫌う、つまりアレルギーを起こしやすい食品はこれら汚染されたものが多く、アレルギーっ子達は体をはって汚染を避けているようです。油脂が多く、汚染された食品はご注意!

環境汚染物質が蓄積しやすい食物

脂の多い魚や魚卵
肉の脂・家畜の肝臓(レバー)
牛乳・チーズ・バターなど乳製品
卵、およびその加工品
植物性油脂など

 汚染が少ない食品でも、脂溶性化学物質の汚染がひどい食品と同時に食べているとその食品でもアレルギーを起こしやすくなってしまいます。つまり、アレルギーの原因となる食品、つまり汚染がひどい食べ物を無理して食べていると他の食べ物も次々とアレルギーを起こしてしまう可能性があるからです。
 日本近海、特に都市周辺の海は汚染が進んでいます。養殖魚や近海産の魚介は汚染が多く見つかっています。魚を食べる場合は、きれいな海で育った魚、食物連鎖の鎖の始まり、つまり、小さな小魚を食べる方がより安全です。魚卵は脂肪分が多く特に注意が必要です。貝類は汚染された海では直接的に影響を受けます。汚い海で育った貝は注意が必要です。
 獣肉は農薬や化学薬品の含まれない飼料で育てられた健康な家畜の肉を脂身・肝臓(レバー:汚染物質が蓄積しやすい)を避けて食べるようにしましょう。アレルギーっ子たちが比較的何事もなく食べられる肉は農薬の残留の少ない餌で健康的な環境で育てられた豚や地鶏の肉です。

・油脂の体外への排泄

ダイオキシンやPCBなどの脂溶性有機塩素系化学物質の体内からの排泄 ヒトは“油脂”を体外に排泄する機能を十分に持ち合わせていない

 体に入った油脂、特に汚染物質が蓄積された油脂は体の外に排泄してしまえば良い訳ですが、これがなかなか大変です。ヒトは油脂を体外に排泄する機能を充分に持ち合わせていないのです。体の中に入ってしまった油脂の排泄経路は次の3つが主なものです。
@皮膚にある皮脂腺から分泌する。赤ちゃんの皮脂腺の分泌が多くなり、白っぽいフケのようなかさぶた状のものが眉毛や頭にベタっと張り付いた状態は脂漏性湿疹といわれます。お母さんが妊娠前、妊娠中、授乳中に食べ、体内脂肪に蓄積した汚染物質は母乳中の脂肪に溶け込んで赤ちゃんに与えられ、赤ちゃんは皮脂腺から油脂を吹き出させ汚染物質を排泄しようとしているようです。アトピー性皮膚炎では皮脂腺から悪いあぶらを排泄し、皮膚で赤く腫れてかゆみを起こしているようです。この状態を爪で掻いて皮膚を壊し、細菌やウイルス、カビなどの感染が加わってアトピー性皮膚炎特有の症状となります。大人の場合は適度に運動したり入浴やサウナで汗をかいたりすることで多少の油脂を体外に排泄できます。
A胆汁からの排泄。体内の脂肪は胆汁として十二指腸内に分泌されます。そして、「脂肪の消化」の役目を果すと腸粘膜から吸収され体内に戻ってきます。食物繊維を多くとっていると脂肪は繊維に付着して便として体外に排出されます。PCBは緑茶を飲むと排泄が高まることが動物実験で報告されています。油脂が少なく野菜・食物繊維たっぷりの和食が大切です。
B母乳からの排泄。母乳は100ml中約4g(エネルギー比で49%)の脂肪を含んでいます。女性の場合、母乳中の脂肪に汚染物質が溶け込み、体内脂肪に蓄積された汚染物質を排泄する一番有効な手段となります。1年間授乳することで母親の体脂肪に溶け込んだ汚染物質は約半分に減ってしまうことがわかっています。ただし、その分赤ちゃんは被害を受けます。
 したがって、一度体脂肪に溶け込んだ汚染物質はなかなか体外に排泄されません。動物実験では大量を短期間に取り込んでも、少量を長期間で取り込んでも体におよぼす影響は同じことがわかっています。なるべく摂取しないように心がけることが大切なのです。

 セラミックに接触させた水(セラミック処理水)は水に溶けない脂溶性の物質(ダイオキシンその他の有機塩素系化合物等)の溶解度を増加させることがわかりました(天谷和夫氏)。水に溶ければ尿から排泄することもできるため、有機塩素系化合物の体外排泄も早くなることが期待されます(→水の話)。

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